【症例】
65歳、男性
【病歴】
早期前立腺癌の治療目的で、放射線(重粒子線)照射療法を施行された。経過は良好であったが、治療2年半後に突然血尿がみられるようになった。総合病院の泌尿器科を紹介した。
【検査と経過】
肉眼的血尿がみられ、原因を精査したが、両腎、尿管、膀胱などに悪性腫瘍や結石などはなかった。前立腺癌の再発もなかった。膀胱鏡検査で、膀胱粘膜の一部だが毛細血管拡張、増生、出血の所見が見られた。放射線治療による晩期後遺症である出血性膀胱炎と診断された。
その後も週1、2回以上血尿が繰返された。発病3ヶ月後、血尿の回数、量が増加していったが、膀胱内の凝血塊のため排尿が困難な状態となった。出血性膀胱タンポナーデの診断で泌尿器科に緊急入院した。尿道カテーテルにより凝血塊を除去して、生理食塩水による持続還流療法をおこなったが止血せず。全身麻酔下で経尿道的電気凝固術を施行された。一時的に止血して退院したが、その後も肉眼的な血尿は頻回にみられた。
アドナ、トランサミンなど止血剤はまったく効果がみられなかった。高圧力酸素療法の実施も検討した。その前に漢方薬で痔出血に止血効果があるとされる、芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)3gを、1日3回食間服用するよう処方した。内服開始した当日夜の出血はみられなかった。その後血尿は回数、量とも著明に減少し、内服開始4週間以降はまったくみられなくなった。血尿が見られなくなって現在1年以上が経過しているが、尿潜血反応もずっと陰性で、日常生活も支障なく過ごされている。
【考察】
前立腺癌の治療として、放射線療法は有力な手段であり、現在手術療法とともにさまざまなものが知られており、治療効果もすぐれている。しかしこの治療による晩期障害として、出血性膀胱炎がある。軽度の血尿を呈するものは全治療患者の10%程度、輸血や止血手術を必要とする重症の出血は1,2%程度みられる。特異的な治療法はなく、止血剤等を内服しながら自然止血を待つというのが一般的な治療である。排尿時の出血が続く為、患者の心理的な負担は大きいものがある。
治療役として、漢方薬の「芎帰膠艾湯」で効果があったという報告が小数ながらみられ、本症例に投与した。芎帰膠艾湯は痔出血の治療薬として保険収載されている。生薬の成分のうち艾葉(がいよう)はキク科のヨモギで、阿膠とともに止血作用があるとされている。痔出血のみならず、婦人科の不正性器出血、血尿など広範な出血をきたす疾患に投与されている。
本症例は治療開始後すぐに効果がみられており、1ヶ月後には症状がまったくみられなくなった。一年経過した現在も再出血はみられていない。難治性出血性膀胱炎の治療薬として試みる価値が充分あると考えられ紹介した。
注意点として飲酒は影響ありますか?